(2022.05.20)
2011年3月に発生した反政府デモが武力衝突に発展してから、シリアでは11年以上にわたって紛争が続いています。突然、平和を奪われた人々は「今世紀最大の人道危機」ともいわれる事態に直面し、680万人以上がシリア国外に避難を余儀なくされました。シリアの隣国であるヨルダンは67万人以上のシリア難民を受け入れています。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、ヨルダンにあるアズラック難民キャンプで新型コロナウイルス感染症対策の観点から、水衛生環境の改善のための支援活動を実施しています。この活動は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)と皆さまの募金によって、2021年3月より実施しています。
夫を事故で亡くしたドゥンヤさん(仮名)も、アズラック難民キャンプで暮らしている一人です。かつては家族と一緒にシリアで穏やかな生活を送っていましたが、シリア危機が勃発し、生活は一転。子ども4人を連れてヨルダンに逃れてきました。
ドゥンヤさんの子どものうち2人には遺伝的な病気があり、日常生活のための介助が必要です。さらに、難民キャンプで生活するなかで娘のアヤさん(仮名)が不慮の事故で大やけどを負い、失明してしまいました。子どもたちが安心して使えるトイレが必要でしたが、アズラック難民キャンプには家庭ごとの戸別のトイレはありません。しかたなく、自分たちでトイレを作りましたが、資材が足りず、安全に使える状態ではありませんでした。
ワールド・ビジョンがトイレの設置活動を始めたことを知ったドゥンヤさんは、意を決して事業スタッフに窮状を訴えに行きました。ドゥンヤさんの家庭の状況は支援対象エリア・基準に沿っており、早急にトイレの提供が行われました。
「2日もしないうちにトイレが設置され、すぐに使えるようになりました!」
ドゥンヤさんは、その時のことを嬉しそうな笑顔で語ってくれました。
特別に手すりもつけられたそのトイレを、目が見えないアヤさんも安全に使えるようになりました。
ワールド・ビジョンは、ほかの人道支援機関とともに、住民に必要不可欠なサービスを提供することを通して、アズラック難民キャンプの環境改善とインフラ整備に取り組んでいます。2021年3月に開始した本事業は、シリア人の衛生サービスへのアクセスを改善することを目的に活動しています(2022年5月に終了予定)。
事業を開始する前のニーズ調査の結果、キャンプで暮らす人々のほとんどが共同トイレを利用しており、個別の専用トイレを利用できるのはわずか16%だと分かりました。ドゥンヤさんのように、共同トイレを利用するのが難しい障がいを持つ家族や高齢者がいる世帯も多いことから、ワールド・ビジョンでは機能性の高い戸別トイレを設置することにしました。
30人のボランティア・スタッフの協力を得て、約260基のトイレの製作、組み立て、設置を進め、ドゥンヤさんのような家族、1300人以上の生活を改善することができました。同時に、難民キャンプに暮らすシリア人の人たちに現金と仕事の機会を提供することにもつながりました。
アズラック難民キャンプの開設から8年以上経つ今も、様々な事情から共有トイレを使うことが難しく、安心して生活できない悩みを抱えているシリア難民の方が大多数です。私が現場に行くと、噂を聞きつけた難民の方々が集まってきて、自分のシェルターにも戸別トイレを設置してほしいとリクエストを必ず受けます。
難民キャンプで働くことは心身ともにハードな業務ですが、ドゥンヤさんのような大変困難な状況にある方々に戸別トイレを設置し終わったときに見られるご家族の安堵と喜びの顔は、私だけでなく、一緒に働いているヨルダン人のエンジニア、そしてシリア難民のワーカー、チームの皆の疲れを吹き飛ばし大きな原動力になっています。支援の喜びを最前線で実感できること、そして何より、その活動が皆さまからのご支援によって支えられていることに、心より感謝しています。
これからも、長引くシリア危機の中で取り残されがちなシリア難民の方々に想いを寄せ続けていただけますと幸いです。
服部 紗代
ワールド・ビジョン・ジャパン 支援事業部 プログラム・コーディネーター
2019年よりヨルダン駐在
紛争により家を追われ、生活が一変した子どもたちに難民支援募金にご協力ください。
貧困、紛争、災害。世界の問題が複雑に絡み合って、
子どもたちの健やかな成長を妨げています。
世界の問題に苦しむ子どもとともに歩み、子どもたちの未来を取り戻す活動に、
あなたも参加しませんか。