(2023.07.21)
カンボジアで3年間(2020年3月~2023年3月)実施した、「プレアビヒア州における母子保健・栄養・水衛生改善事業」が終了しました。
本事業は、外務省による「日本NGO連携無償資金協力」 と、皆さまからの募金によって実施されました。3年間の成果を動画とともにご報告します。
プレアビヒア州は、カンボジア国内において多次元貧困指数(国連開発計画が導入した健康、教育、生活水準等、貧困の程度と発生頻度を多面的に示す指数)が最も高い地域であり*、特に保健サービスの質や水衛生設備が不十分であることから、子どもたちの栄養状態に悪影響をおよぼしています。
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、2017年から3年間実施した「タケオ州における母子健康改善事業 」を通じた成功事例をもとに、水衛生分野の活動を合わせた統合的なアプローチによって、プレアビヒア州の子どもたちの栄養改善を目指す事業を実施しました。
* OPHI Country Briefing 2022: Cambodiaより
子どもの栄養不良は必ずしも貧困が原因ではなく、子どもの成長に必要な栄養素に関する適切な知識・行動の欠如が要因の場合も多くあります。
本事業では、Positive Deviance Hearth (PD Hearth)という手法等を用いて、経済的に貧しくとも栄養状態の良い子どもを育てている保護者の「優れた行動」を見つけ、その行動をもとに栄養不良児を抱える世帯を対象として、地域で実践可能な栄養価の高い食事の提供や養育法の普及に取り組みました。
その結果、3年間のうちに多くの子どもたちの栄養状態が改善し、事業以前は子どもたちの間食としてスナック菓子を与えていた保護者たちも、地域で手に入る果物を与えるようになる等、意識・行動の変容が見られました。
▼栄養価の高い食事の調理デモンストレーションの活動に参加した子どもたちおよび保護者たち
スレイロアちゃんのお母さん
「以前この地域には多くの栄養不良児がいましたが、保護者たちは栄養不良がどういう状態なのか、正しく理解していませんでした。
WVJのPD Hearthの活動に参加した母親たちは、子どもの成長に必要な栄養を含む食事の与え方を学び、自宅で実践し始め、日々の生活の中で、子どもたちの栄養状態の改善に取り組むようになりました」
プレアビヒア州は人口密度が低く、各村・世帯が散在しているにもかかわらず、利用可能な交通手段が非常に限られています。
保健施設や医療従事者の数も十分ではなく、特に貧しく脆弱な世帯にとって適時適切な保健サービスを受けることが簡単ではありません。
そうした状況を鑑み、本事業は計83村で「コミュニティ保健栄養基金」を設立し、住民や地域関係者による有志の寄付を継続的に集め、村人が保健サービスを受診するための交通費や受診費用が必要な際に、同基金から即座に借りられるようになりました(貧困世帯の場合は返済を免除する等各村でルールを設定)。
また各村で基金を管理する委員会メンバーを選出し、中長期的な基金の管理・運用に関するトレーニングを実施し、地域行政や保健施設、また各宗教施設(主に、仏教寺院)と適宜連携できる体制を整備しました。
これにより、事業終了時までに全83村で約11,000米ドルの寄付が集まり、約100名の貧困世帯の住民が同基金を用いて必要な保健サービスを遅延なく受けることができました。
本事業は、きれいな水へのアクセスが特に困難な計7カ所で給水システムを建設しました。
同システムにより、貯水池から汲み上げられた水が水処理施設で浄化され、パイプラインを通じて各世帯に届くようになりました。
こうした取り組みの背景には、プレアビヒア州における水衛生施設の整備が国内で最も遅れており、5歳未満児の下痢罹患率が全国平均よりも非常に高い現状がありました。
これらの給水システムの整備により、貧困世帯を含む10,000名以上の住民がきれいな水にアクセスできるようになりました。
ラオさん親子
「WVJの支援を通じて、きれいな水が簡単に使えるようになりました。
家にある蛇口をひねったら、一瞬で水が出るんです!
以前みたいに水汲みに疲れることなく、簡単に水瓶に水を貯めて毎日きれいな水が使えるようになりました。
もうこれ以上子どもたちが腹痛や下痢になる心配はありません」
加えて、事業地において屋外排泄を行う世帯が依然として多く存在することから、本事業では衛生的な行動と環境作りを推進するための様々な啓発活動を実施し、トイレの建設を促進しました。
その結果、4,000を超える世帯が事業終了時までに新たに自宅にトイレを整備し、3年間で7村が「屋外排泄ゼロ」を達成し、本事業が州農村開発局村とともに表彰式を行いました。
事業地で継続的に地域の課題に取り組んでいく行政パートナーとの連携は、持続性を担保する上で最も重要な点の一つです。
本事業は、事業開始時より地域に存在する既存の体制を活用し、地域関係者が自ら参加し、学び、活動を主導するよう連携を深めてきました。
そうした中で、事業関係者の母子保健や水衛生に関わる知識・能力が向上し、州、郡、コミューン、村の異なるレベルの関係者間の協力体制が強化されました。
特に、事業対象の28のコミューン政府に対しては、年間の活動計画を用いて地域に必要なサポートを提供できるようアドボカシーを続けました。
それまでコミューン政府の予算は、主に道路や他の建物の建設等に用いられ、地域住民への啓発活動や貧困世帯への援助、保健従事者間の会議費用等、社会福祉の活動に対して予算を拠出する慣習がほとんどありませんでした。
しかし本事業の活動を通じて、事業終了年には全28コミューンから計42,662米ドル(1コミューン平均約1,500米ドル)が、地域の子どもたちの成長に資する活動資金として新たに拠出され、年間予算の25-30%をこうした活動のために用いることを掲げる関係者も多く見られるようになりました。
ヴァン・ヌーン氏(プレアビヒア州保健局)
「プレアビヒア州の栄養分野の改善のために、WVJの事業が終わった後も活動を引き継ぎ、本事業がもたらした成果を継続・拡大していきます。
決してプロジェクトのレベルで終わらせず、私たちが続けてフォローアップします」
プロジェクト・マネージャー
李 義真(い ういじん)
「この事業はWVJだけでなく、地域関係者全員と作り上げた事業だと感じています。
新型コロナの影響で移動が規制された時期もありましたが、関係者たちが協力し励まし合いながら活動を継続・展開し、3年間という短い期間で大きな成果を達成することができました。
私たちの事業が築いた基盤の上で、プレアビヒア州の人々が引き続き連携し、子どもたちの健やかに成長に資する環境づくりに取り組んでいくことを期待し祈っています」
李スタッフのブログ
「単なる 人助け のためだけに来たわけじゃない」~カンボジア駐在を終えて思うこと(2023.07.04)