【国連未来サミット2024 参加報告】ワールド・ビジョン・ジャパンの柴田スタッフが登壇

(2024.10.07)

国連本部敷地内にある「非暴力」モニュメントと未来サミットのロゴ
国連本部敷地内にある「非暴力」モニュメントと未来サミットのロゴ



2024年9月10日に第79回国連総会が開会しました。世界のリーダーが集まるこの機会を捉え、9月23日から27日の間、国連ハイレベルウィーク(※1)が開催され、様々なハイレベルイベントが実施されました。そのうちの1つ、「国連未来サミット(Summit of the Future)」にワールド・ビジョン・ジャパンでアドボカシーを担当する柴田スタッフが参加しました。その様子をご報告します。

国連未来サミット(Summit of the Future) (※2)とは

国連未来サミットは、2020年に全世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や気候変動、持続可能な開発目標(SDGs)の停滞に直面する中、創設75周年を迎えた国連において、国連加盟国がアントニオ・グテーレス事務総長に対し現在および未来の課題に対処するための提言の提出を求め、それに対し提出された『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』 (※3)の中で開催が提案された会議です(※4、※5)。

2024年時点で、SDGsの達成期限まで残りわずか6年ですが、SDGsのターゲットのうち軌道に乗っているものはわずか17%である(※6)一方、気候変動や紛争の深刻化、世界の分断の進行によりその進捗がますます妨げられています
このような状況の中、国連未来サミットは、世界のリーダーたちがこれまでの合意を履行するために、改めて多国間主義(multilateralism)への信頼回復国際協力の強化について議論・合意することを目的に、9月22日と23日の2日間にわたり開催されました。

国連未来サミットの様子
国連未来サミットの様子


9月22日の未来サミット開会式においては、成果文書である『未来のための協定(Pact for the Future)』とその付属文書の『グローバル・デジタル・コンパクト』および『将来世代に関する宣言』(※7)が採択されました

『未来のための協定』は、世界が直面する課題に対応し、SDGsを加速させるために、世界のほぼすべての国が参加する国連という枠組みの中で、各国リーダーたちが結んだ公約です。「持続可能な開発及び開発のための資金調達」、「国際平和と安全」、「科学技術とイノベーションとデジタル協力」、「若者と将来世代」、「グローバルガバナンスの変革」の全5章で構成され、56の具体的な行動(Action)が示されています。

『未来のための協定』は、2024年1月にゼロドラフトが公表されました(※8)。その後、ゼロドラフトを下にした政府間協議や、メジャーグループおよびその他のステークホルダーや市民社会に対するバーチャルコンサルテーションを含む意見募集を経て、5回にわたる改訂が行われ、改訂第5版が最終版として採択されました(※9)。

この過程で、ワールド・ビジョン・ジャパンを含む日本の市民社会も意見を提出し(※10)、提言の一部は採択された協定に反映されました

未来サミット仕様に飾られた国連本部
未来サミット仕様に飾られた国連本部

国連未来サミットアクション・デー(Action Days)(※11)

未来サミットに先立つ9月20日から21日には、未来サミットアクション・デー(Action Days)が開催されました。加盟国、市民社会、民間セクター、アカデミア、地方自治体、若者等の様々なステークホルダーが集い、「持続可能な開発と資金調達」、「平和と安全」、「デジタルとテクノロジー」、「将来世代」という主要議題について議論・提言する会議やサイドイベントが多数行われました。

未来サミットアクション・デーにおけるアントニオ・グテーレス国連事務総長と若者の対話
未来サミットアクション・デーにおけるアントニオ・グテーレス国連事務総長と若者の対話


アクション・デーは、若者が主導する特別プログラムで始まりました。開会式では、国連の初代ユース担当事務次長補フェリペ・ポーリエ氏(※12)が、「未来サミットは、多国間システムを再構築して若者をその中心に据えるための一世代に一度のチャンスである」と述べました。

続いて行われた、グテーレス事務総長と若者の対話セッションは、企画から登壇まで若者が担い、率直な対話を行いました。会場で行われたライブアンケートでは、「若者の参画度合い」について会場参加者に質問が行われ、1番多い回答は6段階評価の選択肢のうち最も参画のレベルが低い「Tokenism(お飾り参画)」となっていました。事務総長との対話に参加したバルバドスの若者は「これは驚くような結果ではない」と述べ、未来のための協定』が単なる合意で終わらず、確実に実現されるように行動を起こすことを求めました。

国連本部ビル
国連本部ビル

若者の活躍と市民社会のネットワーク・専門性

今回の未来サミットで強く印象に残ったのは、若者の活躍市民社会のネットワーク・高い専門性でした。

未来サミットには、日本からも多くの若者が参加し、他国政府とサイドイベントを共催・登壇したり、国連機関に提言を提出し議論をしたり、他国の若者と議論したりネットワーク構築を行ったりするなど、様々な場面で活躍していました。近い将来、しなやかで力強い実行力を持つ彼らの活動が、政府の公式な活動として位置付けられ、本質的参画となることを願っています。

国際市民社会のネットワークの強さ、専門性の高さにも感銘を受けました。
先に述べたように、『未来のための協定』は、最終版に至るまでに、5度にわたる改訂が行われました。最終版の1つ前の改訂第4版が出されたのは、サミット直前の9月中旬でした。新しい版が国連のWEBサイトに掲載されるまでにはタイムラグがありましたが、国際的な市民社会のネットワークでは最新の改訂版が瞬時に共有されました。そのため、私たちもいち早く内容を確認し、自分たちのそれまでの主張が反映されているか否か、後退した表現はないかなどを適切なタイミングで把握することができました。

また、『未来のための協定』の表現の解釈や分析などについて、様々な国の高い専門性を有する市民社会メンバーと議論を行うことで、理解を深めることができました。

日本の市民社会も様々なサイドイベントに参加・登壇したり、採択直前の最終稿に対する分析を踏まえた提言と評価(※13)をいち早く発信したほか、9月23日には現地からの報告のライブ配信(※14)を実施しました。

ライブ配信の様子
ライブ配信の様子


今回、9月22日には、国連未来サミット本会議の対話セッションの1つ「平和と安全のための多国間主義の強化」(※15)で市民社会代表スピーカーの1人に柴田スタッフが選ばれ、登壇しました。対話セッションは全4回開催され、各回、各国首脳30-40名、国連機関5名、市民社会5名がそれぞれテーマに関連した発言を行います。

スピーチでは、国際の平和と安全の維持という国連の目的に立ち返り、世界で起きている紛争などの根本原因である、貧困、差別、不正義、環境破壊、女性や子どもに対する暴力、表現の自由の制限、市民社会スペースの縮小などの基本的人権の侵害を解決すること、SDGsの達成に向けた国際協力を強化することの重要性を指摘しました。そして、『未来のための協定』を成功させるため、加盟国の政治的意思の強化と多国間主義に基づく国際協調を求めました(※16)。

対話セッションスピーカー席にて、他の市民社会登壇者とともに
対話セッションスピーカー席にて、他の市民社会登壇者とともに

柴田スタッフより一言

今年の未来サミットは、悪化する国際情勢と世界の分断に対して適切な対応を示すことができない国際社会の現状を背景に開催されました。

現在の国際的な制度は、現在の世界が直面する様々な課題が存在しなかった頃に作られたものです。新しい酒を古い革袋に入れることはできません。そのため、『未来のための協定』では、安全保障理事会を含む国連自体の改革や国際機関等の国際金融アーキテクチャーの改革等、現在および未来の課題に対応する新しい革袋を作るための方策を示しています。

採択直前まで改訂が重ねられた『未来のための協定』は、サミット本番でもいくつかの国から激しい物言いがつき、それに対しこれまでの議論の尊重を訴える複数の国が応酬するなど、激しい議論が繰り広げられました。その様子はまさに世界の分断の象徴のようで、最終的に採択されたときは心から安堵しました。

『未来のための協定』の有効性は、加盟国の政治的意思と国際協調に依存している
『未来のための協定』の有効性は、加盟国の政治的意思と国際協調に依存している


『未来のための協定』の最終版は、ゼロドラフトから比べると内容が大幅に増加・改善し、全体的に高いコミットメントが表明されています。しかし、実際にこれらのコミットメントが有効性を発揮できるか否かは、加盟国それぞれの政治的意思国際協調の成否に大きく依存しています。

ワールド・ビジョン・ジャパンを含む市民社会も、協定の内容が着実に実行に移されるよう、国内外の様々なステークホルダーと連携・協働していくことの必要性を改めて強く思わされました。

ワールド・ビジョン・ジャパン アドボカシー・シニア・アドバイザー 柴田 哲子


ワールド・ビジョン・ジャパン
アドボカシー・シニア・アドバイザー
柴田 哲子

参考資料

※1 国連広報センター:国連総会ハイレベルウィーク(2024年)外部リンク
※2 United Nations:Summit of the Future外部リンク
※3 United Nations:Our Common Agenda外部リンク
※4 国連広報センター:未来サミット 2024:それは何をもたらすのかpdfアイコン
※5 国連広報センター:国連の「未来サミット」について知っておくべき5つのこと外部リンク
※6 United Nations:The Sustainable Development Goals Report 2024外部リンク
※7 United Nations:Pact for the Future, Global Digital Compact and Declaration on Future Generationspdfアイコン
※8 United Nations:Pact for the Future Zero Draft外部リンク
※9 United Nations:Pact for the Future - Revisions外部リンク
※10 SDGs市民社会ネットワーク:「国連未来サミットに向けた日本の市民社会の第一次提言」を外務省に提出外部リンク
※11 United Nations:Summit of the Future Action Days外部リンク
※12 United Nations:Felipe Paullier, Assistant Secretary-General for Youth Affairs外部リンク
※13 SDGs市民社会ネットワーク:国連未来サミット成果文書「未来のための協定」最終稿に関する日本の市民社会の提言と評価外部リンク
※14 SDGs市民社会ネットワーク:<登壇者決定!>【9/23開催】NYからの発信。市民社会が見た「国連未来サミット2024」外部リンク
※15 United Nations:Summit of the Future Provisional Programme Detailspdfアイコン
※16 United Nations:United Nations Journalpdfアイコン ※国際協力NGOセンター(JANIC)およびSDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)として発言

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